障害(補償)等支給の要件
業務または通勤が原因となった負傷や疾病が治り、身体に一定の障害が残った場合には、障害(補償)給付、複数事業労働者障害給付が支給される。
すなわち、支給要件は、
①負傷や疾病が治ったこと
②障害等級表に定める、または同程度の障害があること
となっている。
障害等級の決定
障害等級の決定は、原則として「治ったとき」に行うものであるが、なお、残存する症状が「症状固定」に至るまで相当長期間を要すると見込まれるときは、
①症状固定の見込が6か月以内の期間において認められるときは、医学上妥当と認められる期間を待って「治ったとき」として障害等級を決定
②症状固定の見込が6か月以内の期間において認められないときは、療養の終了時において、将来固定すると認められる症状によって障害等級を決定
することになっている。
支 給 額
障害等級第1級から第7級までは障害(補償)等年金で支給される。
障害等級第81級から第14級までは一時金として次のとおり支給される。
障害等級 | 給 付 額 | 障害特別支給金 | 障害特別一時金 |
---|---|---|---|
第8級 | 503日分 | 65万円 | 503日分 |
第9級 | 391日分 | 50万円 | 391日分 |
第10級 | 302日分 | 39万円 | 302日分 |
第11級 | 223日分 | 29万円 | 223日分 |
第12級 | 156日分 | 20万円 | 156日分 |
第13級 | 101日分 | 14万円 | 101日分 |
第14級 | 56日分 | 8万円 | 56日分 |
障害等級の準用、併合、加重
障害等級の準用
障害等級表に掲げる身体障害に該当しない障害について、補償しないということではなく、その障害が障害等級表のどの等級と同程度と認められるかによってその等級を定めることになり、これを障害等級の準用という。
障害等級の併合
1 | 障害等級表に掲げる身体障害が2以上ある場合には、重い方の身体障害の該当する障害等級による。 これに該当するのは1の障害等級が14級の場合のみである。 | 2 | 13級以上の障害が2つ以上残った場合は、次の各号により重い方の障害等級をそれぞれ当該各号に掲げる等級だけ繰り上げた障害等級による。 |
1 | 第13級以上に該当する身体障害が2以上あるとき | 1級繰り上げ |
2 | 第8級以上に該当する身体障害が2以上あるとき | 2級繰り上げ |
3 | 第5級以上に該当する身体障害が2以上あるとき | 3級繰り上げ |
傷害(補償)給付は、繰上げ等級で給付されるが、例外もある。
9級と13級が残った場合は、重い方の9級が1級繰り上がって8級となるが、8級の一時金は「503日分」、9級(391日分)と13級(101日分)とを合算すると492日分で、繰り上がった結果の方が少なくなるので、繰り上がった8級の一時金ではなく、9級と13級を合算した492日分の一時金が支給される(則第14条第3項但し書き)。
3 次の場合は併合が適用されない。
(1)組み合わせ等級が決まっている場合
両手の全ての指の用を廃した場合は、等級表で4級6号という組み合わせ等級が定められているので、7級7号の併合5級ではなく4級6号が適用される。
(2)併合の結果が障害の序列を乱すことになる場合
例えば、右腕を手関節以上で失い(5級4号)、同時に左腕をひじ関節以上で失った(4級4号)場合、併合の基本ルールによれば併合1級となが、これは等級表で決められている「両上肢をひじ関節以上で失ったもの」(1級6号)」の障害の程度に達しません。そこで、この場合は併合1級ではなく併合2級とする。
(3)同一系列の障害とみなされる場合
次の場合は同一系列とみなし、別の方法で決定する。
① 両眼球の視力障害、調節機能障害、運動障害、視野障害の各相互間
② 同一上肢の機能障害と手指の欠損又は機能障害
③ 同一下肢の機能障害と足指の欠損又は機能障害
(4)1つの障害が他方の障害に含まれる場合
例えば、右足の大腿骨に変形を残し(12級8号)、同時に右足が1センチメートル短縮した(13級8号)場合、足の短縮は大腿骨の変形に含まれると評価できるため、大腿骨変形の12級8号のみが適用される。
(5)1つの後遺障害に、他の後遺障害が派生している場合
例えば、右腕に偽関節が残り(8級8号)、同時にその部位に頑固な神経症状を残した(12級13号)場合、神経症状は偽関節から派生する関係にあるとされるため偽関節の8級8号のみが認定される。
障害等級の加重
加重とは、同一の部位に新たに障害が加わった結果、その障害が既存の障害(業務上、外は関係ない)より重くなった場合のことをいう。
自然的経過又は再発により障害の程度がを重くなった場合は「加重」には該当しない。
加重の場合、次のように差額支給が行われる。
(1)加重後の障害等級が8級以下の場合
支給額=加重後の一時金額-加重前の一時金額
ただし、上記の支給額が、加重後の障害が新たな身体障害のみが生じたこととした傷害補償の額より少ないときは、加重後の障害により支給額を決定する。
(2)加重前も加重後も傷害(補償)年金の場合
加重前・後の障害がともに7級以上の場合(加重前の障害が業務災害の場合、その障害(補償)等年金はそのまま支給され、新たに下記式で求められる額が支給される。)
支給年金額=加重後の(補償)年金額-加重前の障害(補償)等年金額
これは、加重前の事業主と加重事故の事業主の責任を明確にするためである。
労災保険の障害(補償)等年金が支給されていなかった場合は、上記式の年金額が支給されることになる。
(3)加重前は8級以下、加重後は7級以上の場合
支給年金額=
加重後の障害(補償)等年金額-加重前の障害(補償)等一時金額X1/25
障害等級の変更
変更とは、障害(補償)等年金の支給理由となっている障害の程度が自然的に変更(増悪又は軽減)した場合をいう。
障害(補償)等年金受給者の当該障害の程度に変更があったため、新たに他の障害等級に該当するに至った場合には、新たに該当するに至った障害等級に応ずる障害(補償)等年金又は障害(補償)等一時金が支給されることになる。
そのため、その後は、これまでの障害(補償)等年金は支給されないことになる。
したがって、障害等級が8級以下になった場合は、該当の障害(補償)等一時金が支給され、以後は年金の支給はない。
障害(補償)等一時金を受けた者については、障害の程度が自然的経過により増進しても、変更とはならない。
再 発
次のいずれにも該当する場合は、再発として療養(補償)給付が行われる。
(1)再発した現在の傷病と当初の業務上の傷病との間に医学上の関連性がある
(2)症状固定時の症状に比べて現在の傷病が悪化している
(3)治療効果が期待できる
療養中は休業(補償)、または、傷病(補償)年金が支給される。
障害(補償)等年金の受給権者の負傷又は疾病が再発した場合は、従前の障害(補償)等年金(介護(補償)等給付がある場合は同給付も)は支給停止となる。
再治ゆ後の身体障害については、上記加重を準用して、その該当する障害等級に応ずる障害(補償)等年金又は障害(補償)等一時金が支給される。
「治ったとき」
労災保険における傷病が「治ったとき」とは、身体の諸器官・組織が健康時の状態に完全に回復した状態のみをいうものではなく、傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療(注1)を行っても、その医療効果が期待できなくなった状態(注2)をいい、この状態を労災保険では「治ゆ」(症状固定)という。
したがって、「傷病の症状が、投薬・理学療法等の治療により一時的な回復がみられるにすぎない場合」など症状が残存している場合であっても、医療効果が期待できないと判断される場合には、労災保険では「治ゆ」(症状固定)として、療養(補償)給付を支給しないこととなっている。
(注1) 「医学上一般に認められた医療」とは、労災保険の療養の範囲(基本的には、健康保険に準拠しています)として認められたものをいいます。したがって、実験段階または研究的過程にあるような治療方法は、ここにいう医療には含まれない。
(注2)「医療効果が期待できなくなった状態」とは、その傷病の症状の回復・改善が期待できなくなった状態をいう。