有機溶剤による中毒の防止
1 有機溶剤の性状
有機溶剤とは、他の物質を溶かす性質を持つ有機化合物の総称であり、溶剤として塗装、洗浄、印刷等の作業に幅広く使用されている。
有機溶剤は一般的に揮発性が高いものが多く、気体として排出されると作業者の呼吸を通じて、また皮膚からも吸収される。
2 有機溶剤による中毒症状
有機溶剤の中毒には高濃度蒸気の吸引によって頭痛、めまい、吐き気を起こし気を失って死に至る急性中毒と慢性中毒とがある。
慢性中毒の症状としては、
① 精神・神経障害(頭痛、頭重感、いらいら、めまい、不眠、記憶力の低下、失神、手足のしびれ感、神経痛、脱力、麻痺など)
② 皮膚・粘膜障害(皮膚炎、結膜炎、上気道炎など)
③ 呼吸器障害(慢性気管支炎など)
④ 造血器障害(再生不良性貧血、白血病、貧血など)
⑤ 肝、腎機能障害障害
⑥ 発がん性
などが挙げられる。
3 有機溶剤の区分と規制
有機溶剤による中毒を予防するため有機溶剤中毒予防規則(有機則)が定められ、同規則では、有機溶剤をその毒性の強さの順から
第1種、第2種、第3種に区分して規制している。
なお、この区分については、事業場の見やすい箇所に第1種「赤色」、第2種「黄色」、第3種「青色」の旗、板等による掲示、
又は、見やすい文字での表示が義務付けれらている。
有機溶剤の区分の確認
有機溶剤の名称:
その有機溶剤の区分は、第 類です
有機溶剤中毒予防規則による規制
項 目 | 有機則条文 | 第1種有機溶剤等 | 第2種有機溶剤等 | 第3種有機溶剤等 | |||
設 備 |
屋内作業場等のうちタンク等の内部以外の場所 | 密閉設備 | 5 | いずれか | いずれか | ||
局所排気装置 | |||||||
プシュプル型排気装置 | |||||||
全体換気装置 | × | × | |||||
タ ン ク 等 の 内 部 |
吹 付 作 業 |
密閉設備 | 6-① ② |
いずれか | いずれか | いずれか | |
局所排気装置 | |||||||
プシュプル型排気装置 | |||||||
全体換気装置 | × | × | × | 吹 付 以 外 の 作 業 |
密閉設備 | 6-② ① |
いずれか | いずれか |
局所排気装置 | |||||||
プシュプル型排気装置 | |||||||
全体換気装置 | × | × | 〇 | ||||
管 理 |
作業主任者の選任 | 19 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
定期自主検査及びその記録 | 20,20の2 | 〇 | 〇 | 〇 | |||
点 検 | 22 | 〇 | 〇 | 〇 | |||
補 修 | 23 | 〇 | 〇 | 〇 | |||
掲 示 | 24 | 〇 | 〇 | 〇 | |||
区分表示 | 25 | 赤色 | 黄色 | 青色 | |||
測定 | 測定、評価及びその記録 | 28,28の2 | 〇 | 〇 | × | ||
そ の 他 |
健康診断 | 29 | 〇 | 〇 | 注 | 貯 蔵 | 35 | 〇 | 〇 | 〇 |
空容器の処理 | 36 | 〇 | 〇 | 〇 | |||
計画の届出 | 安衛則 | 〇 | 〇 | 〇 | |||
表示(労安法) | 法57 | 〇 | 〇 | × |
注:タンク等の内部における作業に限る
屋内作業場等とは、
・屋内作業場
・船舶の内部
・車両の内部
をいいます。
タン等の内部とは、
・地下室の内部その他通風が不十分な屋内作業場
をいいます。
有機溶剤作業については、厚労省の「パンフレット」
もご覧ください。
特定化学物質による障害の防止
化学物質の中にはがん等の重篤な障害や中毒を引き起こすものがあります。
このため「特定化学物質障害防止規則規制」において、化学物質をその有害性等に応じて
☆ 第一類物質 がん等の慢性障害を引き起こす物質のうち、特に有害性が高く、製造工程で特に厳重な管理(製造許可)を必要とするもの
☆ 第二類物質 がん等の慢性・遅発性障害を引き起こす物質のうち、第1類物質に該当しないもので、さらに
・ 特に漏洩に留意すべき物質を特定第2類物質
・ 「有機溶剤中毒予防規則」を準用する物質を特別有機溶剤等
・ 尿路系器官にがん等の腫瘍を発生するおそれのある物質をオーラミン等
・ 上記に含まれないものを管理第2類物質
に区分されている。
☆ 第三類物質 大量漏えいにより急性中毒を引き起こす物質
に区分して規制がなされている。
また、第1類物質と第2類物質のうち、がん原性物質またはその疑いのある物質は特別管理物質としている。
特定化学物質の区分
特定化学物質の名称:
その特定化学物質の分類は、 です
特定化学物質の一覧
特定化学物質障害予防予防規則による規制
区分 | 第1類物質 | 第2類物質 | 第3類物質 | |||||
条文 | 規制内容 | 特定第2類物質 | オーラミン等 | 管理物質 | 特定有機溶剤 | |||
3~5 | 設 備 | 密閉式 | いずれでも可 注1 |
いずれでも可 注2 |
不要 | 不要 | ||
局 排 | ||||||||
プシュプル | ||||||||
6 | 設備の適用除外 | × | 認定により適用除外 | |||||
9 ~12 |
用後処理装置 | 物質ごとに、除じん、排ガス、廃液、残さい物処理の設置が必要 | ||||||
12の2 | ぼろ等の処理 | 〇 | × | 〇 | ||||
13~20 | 漏洩の防止措置 | × | 〇 | × | × | × | 〇 | |
21 | 不浸透性の床 | 〇 | × | 〇 | ||||
22 | 設備の改善等の作業等 | 〇 | × | 〇 | ||||
23 | 退避等 | × | 〇 | × | × | × | 〇 | |
24 | 立入禁止措置 | 〇 | × | 〇 | ||||
25 | 容器等 | 〇 | 〇 注3 | 〇 | ||||
26 | 救護組織等 | × | 〇 | × | × | × | 〇 | |
27 | 作業主任者の選任 | 〇 特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者 | 有機溶剤作業主任者 | 〇 | ||||
29~35 | 定期自主検査、点検等 | 〇 | × | 〇 | ||||
36 | 作業環境の測定 | 〇 | 〇 注4 | × | ||||
36の2 | 測定結果の評価 | 〇 一部の物質には適用しない | 〇 注4 | × | ||||
37 | 休憩室 | 〇 | × | × | ||||
38 | 洗浄設備 | 〇 | × | × | ||||
38の2 | 飲食等の禁止 | 〇 | × | × | ||||
38の3 | 掲 示 | 〇 注5 | 〇 注6 | × | × | |||
38の4 | 作業の記録 | 〇 注6 | × | |||||
39~40の3 | 健康診断 | 雇入・定期 | 〇 | 〇 注4 | 〇 | |||
配転後 | 〇 注5 | 〇 一部除外 | × 注7 | × | ||||
43~45 | 呼吸用保護具の備付 | 〇 | × | 〇 |
注1:密閉式や局排について規制あり。
注2:局排の機能について規制あり。
注3:第25条第2項、第3項の適用はない。
注4:含有量1%以下の混合物は適用されない。
注5:塩素化ビフェニール等を除く。
注6:特別管理物質に限る。
注7:ジクロロメタンは適用あり。
特別管理物質を製造・取り扱う事業所が、その事業をやめようとするときは、
特別管理物質等関係記録等報告書(様式第十一号)に次の記録等を添付して届けなければならない。
① 測定の記録
② 作業の記録
③ 特定化学物質健康診断個人票
特定有機溶剤については、厚労省の「パンフレット」
もご覧ください。
粉じんによる障害を防止
じん肺は、古くから知られている代表的な職業性疾病であるにもかかわらず、業務上疾病者数は、減少傾向にあるものの、依然として多い状況にあります。
じん肺は、岩石等の粉じんや金属の粒などの無機物または鉱物性の粉じんを長い年月にわたって吸引することで、肺の組織が線維化し、硬くなって弾力性を失ってしまった病気をいい、治ることはありません。
このような粉じんによる障害を防止する対策としては、
① 粉じんの発散防止対策
② 粉じんへのばく露を低減するための対策
③ 粉じん作業従事労働者の離職後も含めた健康管理
(参照 健康診断のページをご覧ください。)
が重要です。
事業者が講ずべき具体的な措置は、粉じん障害防止規則にが規定されていますが、
その主な内容は、
① 設備等の基準、②設備の性能等、③設備・作業等の管理④作業環境測定、⑤保護具で、
健康診断等についてはじん肺法に規定されています。
粉じん障害予防規則では、粉じん作業を別表第1
に定め、そのうち大量の粉じん発生が見込まれるものや動力機械を使用する粉じん作業を「特定粉じん作業」として
別表第2に定め、特別に規制している。
また、手持ち式、可搬式動力工具による粉じん作業は、密閉設備等の設置が困難なことから
別表第3に定める作業は防塵マスクの着用を義務付けている。
特に、屋外におけるアーク溶接や岩石等の切断研磨作業において未着用が多く見受けられる、徹底を期さなければならない。
呼吸用保護具の着用の徹底及び適正な着用を推進するために、衛生管理者等の中から「保護具着用管理責任者」を選任し、
呼吸用保護具の保守管理及び廃棄を適正に行わなければならない。
粉じん障害予防予防規則による規制
規制内容 粉じん作業 |
いずれかの措置 | 全体換気装置 | 換気装置 | 濃度測定 | 除じん装置 | 特別教育 | 休憩設備 | 清掃 | 作業環境測定及び評価 | 呼吸用保護具 | ||||||||
湿式型衝撃式削岩機 | 湿潤に保つ設備 | 密閉する設備 | 局所排気装置 | プッシュプル型 | ||||||||||||||
粉じん則条文 | 4 | 5 | 6 | 6の3 | 10 | 22 | 23 | 24 | 26 | 27 | ||||||||
6の2 | 26の2 | |||||||||||||||||
粉じん作業 | 特定粉じん作業 | 屋内 | △ | △ | ○ | △ | △ | ○ | ○ | ○ | ○ | |||||||
坑内 | △ | ○ | △ | ○ | ○ | ○ | ||||||||||||
特定粉じん作業以外 | 別表第3の作業 | 坑外 | 屋内 | ○ | ○ | ○ | ○ | |||||||||||
屋外 | ○ | ○ | ||||||||||||||||
坑内 | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||||||||||||
タンク内等 | ○ | ○ | ||||||||||||||||
その他の作業 | 坑外 | 屋内 | ○ | ○ | ○ | |||||||||||||
屋外 | ○ | |||||||||||||||||
坑内 | ○ | ○ | ○ |
1 △は、一部のものについて規制あり。
2 呼吸用保護具を使用すべき作業の中で、
所定の作業別表第3第1号の2、第2号の2、第3号の2については電動ファン付き呼吸用保護具を使用させなければ
ならない。
石綿による障害を防止
石綿は、その繊維を吸入すると石綿肺、肺がん、中皮 腫等の重度の健康障害を誘発することが明らかになっており、石綿による肺がんおよび中皮腫の労災認定
件数も高水準で推移している。
石綿および石綿をその重量の0.1%を超えて含有するすべての石綿含有製品について、平成24年3月1日以降、引き続き使用されている間を除き、製造、使用等が全面
的に禁止された。
石綿による障害防止のために「石綿障害予防規則」で規制がなされている。
今後、急増すると予測される建築物等の解体等に係る作業について、建築物等の解体等の作業での
労働者の石綿ばく露防止に関する技術上の指針」が示されている。
石綿障害予防規則では、
ア 事前調査(第3条関係)
あらかじめ、石綿使用の有無を調査し、その結果を記録する。また、調査を終了した日、調査の方法および結果の概要について、労働者が見やすい箇所に掲示する。
イ 作業計画 (第 4 条関係))
あらかじめ、①作業の方法および順序 、②石綿粉じんの発散を防止しまたは抑制する方法 、③労働者への石綿粉じんのばく露を防止する方法が示された作業計画を定め、
計画に基づいて作業を行う。
ウ 隔離等の措置(第6条関係)
石綿等の除去などをする作業を行うときは、次の措置を講じる。
① 当該作業場所をそれ以外の作業場所から隔離すること。
② 作業場所の排気に集じん・ 排気装置を使用すること。
③ 作業場所を負圧に保つこと。
④ 作業場所の出入口に前室を設置すること。
エ 湿潤化(第13条関係)
作業を行うときは、石綿等を湿潤なものとする。
オ 特別教育(第27条関係)
作業に従事する労働者に次の科目について教育する。
① 石綿の有害性
② 石綿等の使用状況
カ 作業主任者の選任(第19条、第20条関係)
技能講習を修了した者のう ちから石綿作業主任者を選任し、次の事項を行わせる。
① 作業に従事する労働者が石綿粉じんにより汚染され、またはこれらを吸入しないよう、作業の方法を決定し、労働者を指揮すること。
② 保護具の使用状況を監視すること。
キ 保護具の使用(第 14条、第44条、第45条関係)
作業を行うときは、労働者に呼吸用保護具、作業衣または保護衣を使用させる。なお、隔離した作業場所における吹付け石綿等の除去の作業にあっては、呼吸用保護具は、電動ファン付き呼吸用保護具、またはこれと同等以上の性能を有する送気マスク等に限る。
ク 発注時における措置(第8条、第9条関係)
工事の発注者、注文者は次のことに配慮する。
① 発注者は、工事の請負人に対し、建築物等における石綿含有、建材の使用状況等を通知すること。
② 注文者は、石綿等使用の有無の調査、解体方法、費用等につ いて法令の遵守を妨げるおそれのある条件を付さないようにすること。
等が定められています。
石綿に係る健康診断については、
労働安全衛生法第 66条、石綿則第40条、じん肺法第7条等において、石綿等を取り扱い、または試験研究のため製造する業務に常時従事する者に石綿および
じん肺健康診断を義務付けている。
石綿の業務に住していた労働者には労働安全衛生法第67条で申請により「健康管理手帳が交付され、年1回無料で健康診断が受けられます。
詳細は健康管理手帳をご覧ください。
石綿障害予防予防規則の適用
石綿の発じん性の状態によって適用が異なり、次のように分類される。
分 類 | レベル1 | レベル2 | レベル3 |
対応石綿含有材 | 【石綿含有吹付け材】 ①吹付け石綿 ②石綿含有吹付けロックウール(乾式) ③湿式石綿吹付け材 (石綿含有吹付けロックウール(湿式) ④石綿含有吹付けバーミキュライト ⑤石綿含有吹付けパーライト |
【石綿含有耐火被覆材 ①耐火被覆板 ②けい酸カルシウム板第二種 【石綿含有断熱材】 ①屋根用折版裏石綿断熱材 ②煙突用石綿断熱材 【石綿含有保温材】 ①石綿保温材 ②けいそう土保温材 ③パーライト保温材 ④石綿含有けい酸カルシウム保温材 ⑤不定形保温材 (水練り保温材) |
【その他石綿含有成形板】 ①石綿スレート ②けい酸カルシウム板第一種 ③住宅屋根用化粧スレート ④押出成形セメント板 ⑤窯業系サイディング ⑥パルプセメント板 ⑦スラグせっこう板 ⑧フロー材 ⑨ロックウール吸音天井板 ⑩石膏板(ボード) ⑪石綿円筒 ⑫ビニル床タイル ⑬その他石綿含有成形板 |
発じん性 | 著しく高い | 高 い | 比較的低い |
建築物等の解体作業における石綿障害予防規則の適用
石綿則条文 | 発 じ ん 性 の レ ベ ル | ||||||
1 |
2 |
3 | |||||
耐火・準耐火建築物の除去 | その他の除去 | 封込、囲込(切断等あり) | 囲込(切断等なし) | 除去(切断等あり) | 除去(切断等なし) | 除去 | |
3 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
4 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
5 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
6 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |||
7 | 〇 | 〇 | 8 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 9 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 13 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 14 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 15 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 19 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 27 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 46 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |